最高裁判所第二小法廷 平成4年(あ)1067号 判決 1998年9月04日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人浦部和子、同成田龍一、同野田房嗣の上告趣意のうち、憲法違反をいう点は、死刑及びその執行方法を含む死刑制度が憲法に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決・刑集二巻三号一九一頁、最高裁昭和三二年(あ)第二二四七号同三六年七月一九日大法廷判決・刑集一五巻七号一一〇六頁)及びその趣旨に徴して明らかであるから、所論は理由がなく、その余は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
また、所論にかんがみ、記録を調査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(本件は、被告人が、それまでの放縦な生活により生じていた借金を一挙に返済するとともに、かねてからの身勝手な欲求を実現するための資金欲しさから、若い女性を誘拐して殺害した上、その家族から多額の身の代金を奪取しようと企て、まず、富山市内において、帰宅途中の女子高校生(当時一八歳)を良いアルバイト先があるなどと言葉巧みに誘って自己の運転する自動車の助手席に乗せるなどして誘拐した上、睡眠薬を飲ませて昏睡状態に陥れ、あらかじめ準備しておいた腰紐でその頚部を絞め付けて殺害し、死体を山中に投棄して遺棄した(第一審判決判示第一の身の代金目的拐取、殺人、死体遺棄)ばかりか、その後、同女の家族に身の代金を要求する電話をかけ、家族の対応から要求を中止したものの、同女の失踪を気遣い、被告人のもとを訪ねて来た同女の肉親の心痛を十分認識しながら、なお右の企てを断念せず、その八日後に、長野市内において、帰宅途中の女子会社員(当時二〇歳)を同様に誘い、睡眠薬を飲ませて昏睡状態に陥れ、あらかじめ準備しておいた腰紐でその頚部を絞め付けて殺害し、死体を山中に遺棄した上、多数回にわたり女子会社員の家族に電話をかけて身の代金三〇〇〇万円を要求した(同判示第二の身の代金目的拐取、殺人、死体遺棄、拐取者身の代金要求)事案である。金銭欲に出た誘拐殺人、死体遺棄という罪質、結果ともに極めて重大な犯罪を、計画的に、かつ、連続して敢行したもので、もとより動機に酌量の余地はなく、いずれの殺害態様も冷酷、非情であることに加え、各遺族の被害感情はいずれも深刻であり、富山、長野両県にわたり連続して敢行された本件が社会に与えた影響も重大である。以上の点に照らすと、被告人の罪責は誠に重く、被告人には前科がないことなど被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、原判決が維持した第一審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。)。
よって、同法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 福田 博)